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豊かなレガートとダイナミクス、無駄の無い直感的なGUI、まさに「作曲家ファースト」なブラス音源だと感じます。 / 「CINEMATIC STUDIO BRASS」レビュー!(作曲家 / サウンド・クリエイター:近藤 嶺 氏)

2019年6月6日 20:55 by T

数多くの有名作品の音楽を手がける作曲家 / サウンド・クリエイターの近藤 嶺(Rei Kondoh)氏より、比類なきサウンドと表現力を兼ね備えたスタジオ・ブラス音源「CINEMATIC STUDIO BRASS」のレビューを頂きました!


私とCinematic Studio Seriesとの出会いは、「CINEMATIC STUDIO STRINGS」(以下CSS)でした。他のストリングス音源には無い、「音楽的な」ヴィブラートとレガートの質感が印象的で、煌びやかなだけではなく、弦楽器のもつ音の影の部分まで丁寧にサンプリングされており、特に、静かで叙情的な楽曲制作において愛用しています。

本ライブラリ「CINEMATIC STUDIO BRASS」(以下CSB)でもそのサンプリング哲学は健在でした。

CSB ScreenShot

特に好印象だったのが、ダイナミクスの変化が非常にナチュラルな点。Modulation(MIDI CC1)がゼロの時、音は完全な無音であり、1~127にかけて滑らかに音色が変化していきます。

ブラスセクションというと、ファンファーレのような派手でパワフルなサウンドに注目しがちですが、弱音による繊細で柔らかな音色も大きな魅力。しかしながら、演奏の強弱により音色そのものが大きく変化する金管楽器の特性上、従来のライブラリでは、ピアニッシモからフォルティシモへの変化などで違和感を感じることが多くありました。

「フォルテの音はこんなにいいのに、柔らかい音が・・・」
「質感はリアルなのに、クレッシェンドさせたらパワーが足りない」
「ベロシティレイヤーによる音色のグラデーションが荒い」

ブラス音源にこういった不満を感じてきた方は多いのではないでしょうか?

その解決のため、ライブラリを使い分ける、重ねる・・・など様々な工夫をしてみても、どこか人数感や位相に不自然さが出てしまう。本質的にソロ奏者の集まりであるウッドウィンズ、大人数で一つの音色を奏でるストリングスとはまた違う、ブラスセクションの扱いの難しさであり、奥深さなのかもしれません。

CSBでは、金管楽器が本来持っている豊かなダイナミクスが丁寧に収録されており、これを主軸とすることで、上記のような「違和感を解消するための負の試行錯誤」から解放され、作曲、オーケストレーションそのものに集中できます。

アンビエンス成分はほどよくスコアリングステージの空気感を含んでおり、3種類のマイクポジション(Close, Main, Room)で好みの音像を作るか、それらがミックスされた「Mix」チャンネルを使用するかを選択可能です。私の場合は、作品に合わせて複数のライブラリや生演奏を重ねて質感を作ることが多いので、マイクポジションは無くてはならない機能です。

ホルン、トランペット、トロンボーンのセクション人数が伝統的な「4.2.2」、加えて各ソロとバストロンボーン、チューバ、という各パッチ構成は、Epic過ぎることのない、「演奏者の存在感、音の輪郭」が感じられる人数感です。それら全てのパッチでKeyswitch等の配置が統一されているので、セクションにソロをレイヤーしたり、CSBの中で楽器の入れ替えをする場合の手間もかかりません。

収録アーティキュレーションは一般的なものが網羅されています。各楽器固有の特殊奏法やフレーズサンプルは収録されていませんが、GUIや操作体系の複雑化に繋がるそれらの要素は、あえて省いたのではないでしょうか。生演奏に差し替え前提のモックアップ制作にも扱いやすい設計です。

ショート系の音の食いつきは良く、速いパッセージでの追従性も問題はありませんでした。そしてやはりレガートパッチは質が高く、CSSと同じくとても上品。リアルタイム演奏すると若干発音ラグを感じるため慣れは必要ですが、特にトランペット、ホルンのレガート表現はナチュラルで、Modulation(MIDI CC1) 30以下の弱奏で演奏していて、しばらくうっとりとしてしまいました。

奏法切り替えは、通常のKeyswitchでの選択と合わせて、Modulation、またはKeyswitch ノートのベロシティによって補助的要素の切り替えを行う、シリーズ共通の仕様です。さらに、任意のKeyswitch CC(デフォルトではCC58)によって全奏法を切り替え可能。文章にすると複雑そうに感じるのですが、よく整理されており、Touch OSCやLemurなど、外部コントローラーやスクリプトエディターを併用するワークフローへの配慮もなされています。Alt+クリック(Win)、Option+クリック(Mac)で使わないアーティキュレーションをメモリから削除できるのも便利ですね。

私自身もそうですが、生演奏、サンプリング、物理モデリング・・・、あらゆる音色を分け隔てなく「パレット」として扱っていくのが、現代の音楽制作の主流スタイルとなっています。

作編曲家がコントロールしなければならない要素が日々増えていく中、リアリティを追求しつつも、シンプルさと柔軟性をバランス良く兼ね備えたライブラリは、アイデアの足かせを取り払ってくれます。その点でCSBは、金管楽器の華やかさだけでなく陰影まで捉えた音色、豊かなレガートとダイナミクス、無駄の無い直感的なGUI、まさに「作曲家ファースト」なブラス音源だと感じます。


近藤 嶺(Rei Kondoh)
作曲家 / サウンド・クリエイター

3歳より、ピアノ、クラシック音楽、作曲や音楽理論等を学ぶ。2003年、1stアルバム「Eternal Mirage」をリリース。
オーケストラ、エレクトロニカ、ロックといったジャンルを越えた幅広い表現により、ゲーム、アニメ、映画など映像音楽を中心に活動。
2017年の「スナックワールド」において、日本のテレビアニメでは珍しいフィルムスコアリングの手法で全話の音楽を制作。
自己の音楽性を高めると共に、自身の作品発表や、他分野とのコラボレーションなどを視野に入れた制作活動を行っている。

テレビアニメ「スナックワールド」「ダンボール戦機」、映画「バイオハザード ダムネーション」、ゲーム「大神」「戦国BASARA」シリーズ、「ベヨネッタ」「ファイアーエムブレム覚醒,if」「Dragon’s Dogma」、海外CM等、多くの作品で作曲を担当。その他、アーティストへの楽曲提供、編曲、オーケストレーション、サウンドプロデュースを手掛ける。株式会社T’s MUSIC所属。

オフィシャルサイト
http://www.reikondoh.com

Twitter
https://twitter.com/ReiKondoh