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EMBERTONE のヴァイオリン音源「FRIEDLANDER VIOLIN」 とヴィオラ音源「FISCHER VIOLA」の海外誌レビューをご紹介!(和訳あり)

2016年6月15日 11:15 by T

Sound on Sound 2016年5月号(イギリス)に、生き生きとした演奏表現が魅力的なソロ・ストリングス音源「FRIEDLANDER VIOLIN」「FISCHER VIOLA」のレビューが掲載されていましたのでご紹介します!(和訳)


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Embertone社はコンポーザーであるアレックス・デイビス氏とジョナサン・チャーチル氏が2012年に設立した、アメリカのサウンド・デベロッパーです。彼らは自分たちのことを ”サンプル・ライブラリ・オタク” と呼び、最初は自分達の趣味の範囲でインストルメントをサンプリングし始めました。最初はとても小規模なサンプル・ライブラリをリリースしており、種類もバラバラでしたが、資金の充実化もあいまって、徐々にライブラリの音楽性と趣旨が統一されていきました。

Embertone社ライナップの中でも人気のタイトルで、彼らは“演奏可能な” ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスからなるヴァイオリン属のソロ・インストルメントを作成するという、まさにサンプリング界の“フェルマーの定理”(360年間、名だたる数学者を悩ませた数学の難題)のような、永久とも思われる難題に取り組みました。デリケートな(強弱の)ピアノから活気あるフォルテまで、弓さばきを何度も再現する中で、ビブラートやダイナミックがどのように音へ深みを与えているかも模倣し、そして一番重要なポイントとして、メロディの中でスムーズなレガートも作っています。

合計で4,000にも及ぶサンプルを収録し、そして多機能なKontaktインターフェースを兼ね備えた『Embertone Friedlander Violin』が完成しました。このライブラリではヴァイオリン奏者のドーヴィット・フリードランダー氏によるビブラートなしの演奏が、ドライな音響環境を備えたスタジオでレコーディングされました。ハリウッドのような派手なサウンドはなく、また作りこまれたエスプレッシーボなアプローチがないことに最初は落胆するかもしれません。しかしこの質素でオーガニックな音へのこだわりは、ユーザーが完全に音を自分たちの手でコントロールするためには必要不可欠だったのです。非常にリアルなビブラートは、複数のモジュレータ・ユニット・スクリプトを搭載することで実現されました。Gentle、Passionate、 Progressive など様々なプリセットがあり、更にビブラートのスタイルをカスタムすることもできます。

ヴァイオリンの”Full ~ MW” インストルメントでは、モジュレーション・ホイールをビブラート/ボリューム・コントローラーとしてご使用できます。ホイールを押し上げるとビブラートが強くなり、音も大きくなります。ライブ・パフォーマンスでは便利な機能ですが、もしダイナミックのコントロールを切り離して調整したい場合は、ボリュームをエクスプレッション・ペダルにアサインするパッチがあります。代わりに、とても安価なTouchOSC MIDIコントローラー・アプリケーションによって、iPadでスウェル、フェード、ビブラートをコントロールすることもできます。(iPadは別売)

フリードランダー・ヴァイオリンには2つのレガート・モードがあります。スラーでは弓を切り替えずにレガートします。もっと滑らかなスラーを演奏したい場合は、low C# キースイッチを一瞬打鍵します。するとベロシティーでレガート・スピードを調整しながら、ピッチからピッチへと滑らかに推移するポルタメントを演奏することができます。

これらのアーティキュレーションはこのインストルメントの心臓部分と言えるでしょう。滑らかで表現豊かなメロディーラインを制作することができます。ストレート・ポリフォニック・サステインというスタイルによって、ハーシュ、アルコ、スタッカート、トレモロ、ピッチカートのどれも効果的な演奏が可能です。アンサンブル・モードでは、バーチャル・ヴァイオリン・アンサンブルを8人編成まで制作することが可能です(少しシンセのような感じですが、パッドに便利です)。そしてBow Noise Reduction機能では、音色をソフトにすることができます。さらにこのライブラリはもっと深いところまでプログラミングされており、レガートのスピード、ポルタメント・ベロシティ・スレッショルド、ビブラートの振幅までコントロールも可能です。

『Friedlander Violin』は、クラシックからカントリーまで様々なジャンルで使うことができます。そしてもし懇切丁寧にMIDIを打ち込んだなら、弦楽器の巨匠たちのように、電光石火な速さの演奏も可能です。長いこと昔に廃盤になったGarritan製品のStradivari以来の自然なサウンドとフレキシブルさを兼ね備えたソロ・ヴァイオリンでした。

制作から2年、『Fischer Viola』はEmbertone社人気シリーズであるインティメイト・ストリングスに最も最新のライブラリとして仲間に加わりました。約6,000ほどのサンプルが収録されており、極めて貴重な20世紀のイタリア、ビシャッキ製のインストルメントを、クリストファー・フィッシャー氏が演奏。『Fischer Viola』は、『Friedlander Violin』と同じように動作し、ポルタメント、サステイン、トレモロ、ピッチカート(‘Bartok snap’も含む)、スタッカートを含むレガートの2つのスタイルがあります。MIDI CCコントローラーを使用して短いスピッカートを演奏することもできます。

pとmf ダイナミック・レイヤーはフェーズ・ロックされており、自由自在に2つのダイナミック・レイヤー間をクロスフェードすることができます。更に『Friedlander Violin』では上級の ”VSLスタイル” レガートモードが採用されており、1音目を打鍵したままなら2音目を離鍵すると1音目が再トリガーされます。なぜ他の会社はこの方法を導入しないのかわかりません。これは直感的で、トリルやグレースノートにおいて最高のフレキシビリティーを提供します。『Friedlander Violin』と一緒で、ポルタメントは中心の機能です。舞い上がるロマンチックなスライドと、もし必要ならボリウッドなテイストをこのヴィオラのサウンドに追加することもできます。

もう1つの特筆点として、音色にはバリエーションがあり、コンソルディーノ(ミュート)、リアルなスルポンティチェロ(”on the bridge”)、そしてメロー” over the fingerboard’” なスル・タスト弦はヴィオラの節を露見させるのに便利です。Colorコントロールを使って弦の一をbridgeからfingerboardの間で動かし、違う音色の濃淡を作ることも可能です。他の便利な機能としては、Ghost Key キースイッチです。この機能では無音の音をベンド、またはポルタメントスライドのスタートポイントにセットすることができます。とても良いアイデアです。

『Friedlander Violin』と『Fischer Viola』は、3.5GBと4.33GBです(インストールサイズ)。そして無償のKontakt 5 Playerでも、Kontaktのフルバージョンでも動作します。両インストルメントは16ビットと24ビットが用意されています。私は両方試してみましたが、音質の差を聞き取れませんでした。

28鍵のトイピアノのサンプルを異常なほどにレコーディングしている間、Embertone曰く、“トンネルシンドローム(手と指に苦痛やうずきがある症状)を引き起こし、精神病院へ送られる” ほどになりました。1つのインストルメントのサンプルを緻密なまでにレコーディングする、この異常なまでの仕事量をEmbertone社の2人は知っています。それが理由で、Embertone社のシンフォニック・コレクションをすぐに見ることはないでしょう。しかし、大きいことであることがしばしば一番に考えられているこの業界で、この小さい、コンパクトな、そして天才な会社は絶対に過小評価されてはなりません。

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